近年、企業におけるデータ活用が加速する中で、「データガバナンス」の重要性が注目されています。
しかし、「聞いたことはあるけれど、具体的に何をすればいいのかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
本記事では、データガバナンスの基本的な考え方から、実際に取り組むためのステップ、推進のポイントまでをわかりやすく解説します。
データを正しく管理・活用するための第一歩として、ぜひ参考にしてください。
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データガバナンスとは
データガバナンス(Data Governance)とは、企業や組織が保有するデータを正しく管理し、適切に活用するための仕組みやルールを整える活動、すなわちデータを統治するための取り組みです。
似た言葉に「データマネジメント(Data Management)」がありますが、これはデータを実際に管理・運用するための日々の実務を指します。一方、データガバナンスはその土台となる枠組みや方針を定めるため、データマネジメントより上位の概念であるといえます。
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データガバナンスが求められる背景
データガバナンスが求められる背景としては、以下が挙げられます。
データドリブン経営の重要性の高まり
現代のビジネスは環境の変化が激しく、顧客ニーズや市場動向も多様化・複雑化しています。その中で、勘や経験に頼るのではなく、データに基づいて迅速かつ正確に意思決定を行う「データドリブン経営」が重視されるようになっています。
しかし、いくら多くのデータを保有していても、それらのデータが正確かつ信頼できる形で整理・整備されていなければ、その価値を活かすことはできません。また、複数部門にまたがるデータを連携・活用するには、全社的なルールや体制が必要です。
こうした背景から、「データはあるけれど使えない」、「どの数字が正しいかわからない」といった状況を防ぐために、データの品質・定義・責任範囲などをあらかじめ整えておくことの重要性が高まっています。
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「正確なデータ」に対するニーズの高まり
業務のデジタル化が進む中、日々の意思決定や顧客対応、経営戦略など、さまざまな場面においてデータの活用が不可欠となっています。しかし、誤ったデータや不整合のある情報をもとに判断を行うと、非合理的な選択につながるリスクがあります。
また、同じ用語でも部門によって定義が異なる場合、システムのクラウド化や再構築などでデータの棚卸しを行う際に支障をきたします。それに気づかず棚卸しを進めてしまうと、部門間での実績の比較や、データ入力の際に混乱が生じ、データ活用が難しくなってしまいます。
これらの問題を防ぐためには、データの正確性や一貫性を保つ仕組みが必要です。そのためには、データの定義・ルール・責任範囲を明確にし、誰もが信頼できるデータを使える環境を整える必要があります。
セキュリティ意識の高まり
2023年4月に総務省・経済産業省が公開した「DX 時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブックver1.3」によると、個人情報や機密情報の取り扱いへの関心は国内外ともに高まっています。
そのため、企業に対しても厳格なデータ管理とセキュリティ対策が求められています。万が一、情報漏洩が発生すれば、法的リスクだけでなく、企業の信頼にも大きなダメージを与える可能性があります。
これらのリスクを回避するには、社内において「誰が・どのデータに・どのように」アクセスできるのかを明確にし、データを取り扱う際のルールを整備することが重要です。特に、クラウドサービスの利用拡大や在宅勤務の定着により、データの流通範囲が広がる中、適切なガバナンスがなければリスク管理が難しくなります。
セキュリティを確保しながらデータを有効に活用するためには、アクセス権限の整理や利用ルールの整備といった基盤づくりが欠かせません。
データガバナンスに取り組むメリット
データガバナンスに取り組むメリットとしては、データ活用効果の最大化とデータ活用リスクの最小化が挙げられます。
データ活用効果の最大化
社内にあるデータを活用して業務改善や意思決定を行うには、「どこに・どんなデータが・どういう意味で」存在しているか、把握できる状態であることが前提となります。
データガバナンスに取り組むことで、データ品質の向上させるとともに、業務に安心して使えるデータ基盤が整い、意思決定の質とスピードを高めることが可能になります。それらはビジネスチャンスの開拓や、コスト削減・利益率の向上にもつながります。
データ活用リスクの最小化
「どの部門がどのデータにアクセスしてよいのか」、「誰がデータを更新・削除できるのか」が曖昧なままだと、誤操作によるデータの欠損や改ざんといった事故が起こりかねません。
データガバナンスでは、アクセス制御や利用ルールの整備、データのライフサイクル管理といった対策を通じて、こうしたリスクを事前にコントロールすることができます。結果として、安心してデータを活用できる環境づくりが実現し、社内外の信頼向上にもつながります。
データガバナンスに取り組むためのステップ
データの整備やルール作りは一朝一夕で完了するものではなく、組織全体で段階的に進めていくことが求められます。ここでは、基本的なステップをご紹介します。
Step1・現状の課題と目的の明確化
まずは、自社におけるデータ活用や管理の現状を振り返り、「どのような課題があるのか」、「なぜデータガバナンスに取り組む必要があるのか」を明確にしましょう。目的や期待する効果を整理することで、社内関係者の理解と協力も得やすくなります。
- 課題と目的の例
- データの重複入力や入力漏れなどが発生しやすく、業務効率や信頼性に影響している
- データの責任者が不明確で、データ品質の維持・改善が継続しない
Step2・データの可視化と整理
次に、保有しているデータの種類や所在、管理状況などを棚卸し・可視化します。これにより、どのデータにどのような課題があるかを具体的に把握でき、ルール設計や体制構築の前提となる情報を整えることができます。
ビッグデータの時代と言われてから久しい現在、さまざまなものがデータという形で可視化できるようになりました。しかしそれらを業務の中でいかに活用できるかが、企業において重要な課題となっています。今回は可視化とそれと似た意味で用いられる[…]
Step3・体制づくり
関係部門や役割ごとの責任範囲を明確にし、必要に応じてデータオーナーやデータスチュワードなど、データ管理を担う専門的な役割を設けることで、実効性のある運用が可能になります。
また関係者を巻き込んで協力体制を構築することで、使う人の目線を意識して、ルールを考え、すり合わせることができます。
Step4・ルール策定
データの定義、管理基準、アクセス権限などについてのルールを明文化します。関係者間での合意形成もこの段階で図っていきましょう。
また、ルールは業務に過度な負担をかけず、現場で実践可能な内容であることが重要です。業務部門のユーザーにヒアリングを行ったり、内容に問題がないか確認を依頼することで、より業務に即したルールにしていくことができます。
Step5・教育・啓発と定着化の推進
策定したルールを実務に根づかせるため、社内への周知・教育・トレーニングを行います。同時に、ルールを支えるデータ管理ツールや業務フローの導入・整備も進めましょう。
継続的な啓発活動やサポート体制の整備により、データガバナンスを企業文化として定着させていくことが大切です。
データガバナンスを実施する上でのポイント
データガバナンスは一度決めて終わりではなく、継続的に改善・運用していく取り組みです。現場で定着させ、効果を上げるためには、いくつかの実践的なポイントを意識しましょう。ここでは、実施する際に押さえておきたいポイントをご紹介します。
スモールスタートで成功を重ねる
データガバナンスは全社的な取り組みであるため、最初から完璧な仕組みを構築しようとすると、関係者の負担が大きくなり、かえって頓挫するリスクがあります。
まずは「特定部署の売上データ管理」や「マスタの登録ルール見直し」など、現場に近い課題、特定の部門・データ領域などの小さな単位からスタートしましょう。
効果が見える成功事例を積み重ね、段階的にスコープを広げながら、組織全体に取り組みを浸透させていくことで、関係者の理解と協力を得やすくなります。
業務の自動化やツール導入は、整理できたところからどう仕組みに落とし込むかを考えた上で検討するのがおすすめです。
ルールや定義を明確化する
「どのデータを・誰が・どのように扱うべきか」といったルールや定義が不明確なままでは、データの扱い方にばらつきが生まれ、ガバナンスが機能しません。そのため、用語の定義や管理方針、権限設定などを誰もが見える形で共有することが重要です。
あわせて、データの責任者や発生元(来歴)、更新頻度などの情報も整理できると、より一貫性のあるデータ環境の構築につながります。
最初はExcelでもよいので、これらの情報を簡単に確認できるようにしましょう。
さらに現場のメンバーが迷わずにデータを扱える環境づくりを目指す上で、データカタログやガイドライン資料の整備・活用も有効です。
取り組み内容をドキュメント化しておく
データガバナンスの活動が属人的にならないよう、取り組み内容をドキュメント化しておきましょう。
課題やルールの制定経緯、意思決定の背景、運用方法などを記録・共有しておくことで、担当者が変わっても継続性を保ちやすく、社内説明もしやすくなります。他社の事例や身近なミスの例も記載しておくと、関係者の理解もより深まります。
また、関係者間の認識齟齬を防ぐうえでも、記録の整備は欠かせません。将来的な改善や見直しの際にも、過去の経緯や判断の記録は有効活用できます。
データガバナンスの事例
以下は業務データの正確性や整合性を保ち、誰が・どのように管理するかを明確にするデータガバナンスの取り組みの一例です。実践のヒントや参考になるポイントを見つけて、自社での取り組みに活かしてみてください。
エラーデータの抽出と修正を自動化
基幹システムでエラーデータが発生した際、エラーデータをBIツールで抽出後、スクラッチ開発システムでエラーデータを修正し、基幹システムにアップロードする、という作業を自動化しているお客様の事例です。
これにより、データ修正の属人化を防ぎ、データの一貫性と正確性を確保しています。
食肉の卸売企業におけるExcellent活用事例をご紹介いたします。事務職間で定型処理やノウハウを共有本日はよろしくお願いいたします。まず御社の事業内容を教えていただけ[…]
実際の出荷とシステム上のステータスの矛盾を検知・可視化
実際の品の状況と在庫システムの出荷状況に矛盾が生じてエラーになった際、「いつ出荷したか」をチェックするのにBIツールを使用しているお客様の事例です。
データの整合性をコントロールし、エラー検知後の対応プロセスを明確化しています。
メーカー系システムインテグレーションの企業におけるWebQueryの活用事例をご紹介いたします。スクラッチシステムと組み合わせてエラー修正を効率化こんにちは!早速ですが[…]
データの正確性・信頼性を向上させよう
ビジネスにおけるデータの重要性がますます高まる中、正確で信頼できるデータを維持することは、企業の競争力そのものと言っても過言ではありません。データガバナンスは、単なるルールづくりではなく、データを価値ある資産として最大限に活用するための土台です。
本記事で紹介したように、スモールスタートから段階的に取り組みを進めることで、データガバナンスの取り組みを無理なく定着させることができます。まずは自社の現状を見つめ、できるところから一歩を踏み出し、精度の高いデータ活用と継続的なビジネス成長につなげていきましょう。
以下にデータガバナンスの課題を整理し、対策のヒントを得られる「データガバナンス課題発見シート」をご用意しています。課題解決のヒントとなる課題対策マップも記載されているため、ぜひダウンロードしてご活用ください。